女優・小林聡美さんのエッセイ集「わたしの、本のある日々」を読みました。
「サンデー毎日」に月に1回連載されていたエッセイをまとめた本です。
小林聡美さんがひと月に読んだ2冊の本が、日々の暮らしのエピソードや思い出話などとあわせて紹介されています。
「読書家ではない」と言う著者が選んだ本は、チェーホフの作品もあれば、ハウツー本やレシピ本、ムック本なんかもあって。
映像で見る著者のイメージそのままの気取らなさと飾らなさで、本とともに暮らす楽しみを思い出させてくれます。
「そうそう、本って本来、肩肘張って読むものじゃなくて、3時のお茶とおやつみたいに、毎日の暮らしにそっと寄り添ってくれるものだったよね」
そんなことを思いながら、軽やかな気分でページをめくりました。
…ここでいきなり、ちょっと話は逸れるんですが。
「読書家」という言葉を聞くと、「格調高い文学作品を何冊も読破している人」や、「年に100冊200冊の本を軽々と読みこなす人」などを想像する人も多いと思います。
私の周りにはそのような読書の達人が何人もいて、自分にはとてもマネできないことなので、心の底から尊敬し、また羨ましく思っています。
しかし、たとえ読書量は多くないとしても、読んだ本への感想を自分の言葉で素直に語り、本に書かれたことの本質をとらえて自分の生活に落とし込める小林聡美さんのような人もまた、とっても質の良い、真の読書家と言っていいと思うのです。
私も小林聡美さんのように本が読みたい!

さて、本題に戻りまして。
この本に収録されたエッセイで特に印象に残ったのが、「ものにはパワーが宿る」という1編です。
このエッセイには、ものを持つことへの卓越したセンスを持つ女性として、女優の樹木希林さん、スタイリストの伊藤まさこさんが登場します。
このお二人の、ものに対する考え方がとっても素敵なのです。
樹木希林さんは生前、「ものを買わない、溜めない」という精神を貫いていましたが、唯一、着物だけは、「悦び」として所有することを自分に許していたのだそうです。
「布が一番いい場所で生きるように」と、着物をほどいて他の着物と縫い合わせたり、ドレスに仕立て直したり…。
希林さんの個性的な着こなしは、大切な持ち物を最大限に輝かせるための、工夫の賜物だったのです。

一方の伊藤まさこさん。「ものを買わない」樹木希林さんとは対照的に、「とにかくものを買いまくる」人なのだそう。
洋服は同じものを色違いで揃え、似たようなアイテムをいくつも持ち、迷ったらとりあえず買う。
「買い物は人生の一部」と言い切る潔さで買い物道を突っ走る伊藤さんですが、不思議と、ものは増えないのだというのです。
人に分けたりあげたりして、ものを循環させているのだとか。

前回の記事で、本をせっせと手放していることについて書きましたが、いま私がやりたいことも、まさに本を循環させることなんです。
普段、モノへの執着心はほとんどない私ですが(友人にも「あんたってこだわりとかホントないよね…」とよく言われる)、本を買うことだけはやめられませんでした。
樹木希林さんにとっての着物と同じように、唯一の「悦び」として、本を買うことを自分に許してきました。
伊藤まさこさんと同じように、興味のある本を見つけて買おうかどうか迷ったときは「とりあえず」買う人間でした。
それができたのも、数年前まで、本は相対的にとても安かったからです。
もともと本というものは、わずかな金額を払うだけで、見知らぬ国に行けたり、宇宙にまで行けたり、過去や未来を行ったり来たりできる、コスパのいいアイテムです。
そして洋書は、今のような円安になる前は、すこぶる安く手に入りました。
20代や30代のころ、英語もろくに読めないのにペーパーバックに気軽に挑戦できたのは、たいていの作品は1000円札でお釣りがくる値段で買えたからです。
暇を見つけてはタワーブックスに寄り、手頃なペーパーバックを仕入れて乱読した結果、なんとか一応、まとまった量の英文を読めるようになりました。
けれども今は、和書の値段も大幅に上がってしまったし、洋書にいたってはすっかり贅沢品になってしまいましたね。
多読に最適とされるGraded Readersも、私が英語のやり直しを始めたころはワンコイン程度で買えたような気がしますが、今は英語学習者がポンポン買える金額ではないですよね…。
いまウチの本棚にある洋書の多くは、円高のころにせっせと買い集めたものです。
読まずに自宅で寝かせていたところで、その本のコクが増したり、熟成されたりはしません。
であれば、値段のせいで本を買うのを躊躇している人に手頃な値段で譲り、喜んでもらったほうが良いのではないか、と、考えるようになりました。
その本がより良い場所で輝けて、本来の役割を果たせるように。
私はいわゆるロスジェネ世代の人間ですが、社会に出てしばらくは、世の中にほんのり漂うバブルの残り香の恩恵を受けていました。
物質的にも精神的にも、今よりは豊かさを実感できていたような気がします。
(いろいろ問題はあったし、自分自身も就職などにはたいへん苦労しましたが、それでもまだなんとかなったんですよ。あの頃は…。)
そして、物理的なものに宿るパワーとデジタルの便利さ、その両方の良いところを同じ重さで知っている、おそらく最後のほうの世代です。
子供のころ、母親が読みかけでテーブルに置いていた文庫本を盗み読みすることで本の味を知った経験から、「もの」の持つパワーを今でもしっかり信じています。
だからこそ、読みきれないほどの本を手放すのが惜しくて、今まで困っていたわけですが…。
これからは、樹木希林さんや伊藤まさこさん、そして小林聡美さんなど素敵な先輩たちの生き方に倣って、ものがもたらす喜びを他の人と分かち合い、パワーをつないでいこう、と決意した次第なのであります。
断捨離という言葉は寂しい。だからこその循環。
ということで、いま手元にある本をどんどん読んで、どんどん放流し、引き続きどんどん本を買っていきますね!
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