50年以上生きてきて初めて、最高に面白いクリスマス関連本に出会いました。バーバラ・ロビンソン著「The Best Christmas Pageant Ever」です。
The Best Christmas Pageant Ever(Paperback) -Amazon.co.jp
タイトルの直訳は『史上最凶最高のクリスマス降誕劇』。
初版は1972年。日本では1983年に『なるほどクリスマス降誕劇』というタイトルで翻訳版が出たものの、さほど話題にならないまま絶版になってしまったようです。
しかし本国アメリカでは安定した人気があるようで、これまでに何度も映像化および舞台化がなされているとのこと。今年11月にも新作の映画が公開され、映画レビューサイトRotten Tomatoesでは91%の高評価!これはちょっと観たいですね。どこかで配信されないかなー。
なんと、私の大好きなドラマ『ギルモア・ガールズ』のローレライことローレン・グレアムが出演しているではないですか!この人が出演する作品の原作が面白くないわけがない。そう確信し、ペーパーバックを入手したのでした。これがもう大正解!
舞台はアメリカのとある町。クリスマスが近づき、町の教会では「降誕劇」の準備が始まりました。聖母マリアがイエス・キリストをみごもり家畜小屋で出産するという、クリスチャン以外にもおなじみの一連の物語を地域の子どもたちが演じるのが習わし。しかし、毎年毎年お決まりの内容、そしてお決まりの配役で、正直なところ、子どもたちは飽き飽きしています。
そんなところに、途方もない暴れん坊ぶりで地域のみんなから恐れられているハードマンきょうだいが、教会で配られるお菓子を目当てに現れます。そして、クリスマスがなんのお祝いなのかも知らずに育った彼らが降誕劇を演じたいと言いだしたから、さあ大変。町中が大騒ぎになってしまいます。
ハードマンきょうだいの悪党っぷりは、盗みは働くわタバコは吸うわ、近所で火事を起こすわで、まあとにかくヒドイもの。80年代の田舎町でヤンキーに囲まれながら多感な10代を過ごした私が読んでもドン引きするほどでした。今マジメに子育てをしている方の中には、はじめの数ページで読むのをやめてしまいそうになる人もいるんじゃないかと思います。しかしそこをなんとかグッとこらえて、どうか読み進めてほしい。
学校の勉強もロクにせず、聖書に触ったことすらなかったきょうだいは、降誕劇に出るにあたり、キリスト誕生にまつわる物語を初めて知ることになります。彼らから繰り出される疑問の数々についつい吹き出してしまいますが、よくよく考えればそれらの疑問はどれも極めて真っ当、極めてシリアスな内容なのです。
「マリア妊娠!?やばすぎ」
「子ども(それも神の子)を産むのにちゃんとした部屋を用意してもらえないのはどうかと思う」
「赤ん坊を布切れで巻いて転がしとくとかありえない。児童相談所は何やってんの」
そのほか、幼子を拝みにやってきた賢者たちを「ヘロデ大王が寄越したスパイ」と断定したり、賢者が幼子に捧げた贈り物を「ショボい」とこき下ろすなど、まあとにかく言いたい放題。演じるときもやりたい放題。
世間から厄介もの扱いされていた「異端児」たちによって、キリスト生誕の美しい物語に隠された不都合な真実(?)が暴かれるにつれ、ゼンマイ仕掛けの人形劇のように覇気がなかった降誕劇に、温かな血が通うようになっていきます。
きょうだいの言動や行動のひとつひとつにその都度笑わせてもらいましたが、それと同時に、自分がこれまでいかにクリスマスについて何も知らないまま表面的な部分だけで楽しんでいたかを思い知らされ、恥ずかしくもなりました。そして、きょうだいの鋭い指摘や振る舞いの裏にあるものを深掘りしていくと、現代社会に通じる、たとえば育児放棄などの問題が垣間見えてきますが、説教くささはとことん省かれ、子どもから大人まで楽しめる軽妙な語り口に仕上がっているところが、とにかく秀逸です。
こんなに面白くて感動的で、しかも勉強になるクリスマス本が存在することを、もっと早く知りたかった!映画化されてヒットするのも納得です。今、世界のあらゆるところで、トリックスター的な人物が世の中を引っ掻き回していますからね。このハードマンきょうだいの物語のように、最後にはすべてが丸くおさまって、みんなが幸せな気持ちになれることを願っています。
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