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今こそ読むべき70年代の青春小説 That Was Then, This Is Now (S. E. Hinton)

ヤングアダルト(YA)
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以前ご紹介したRob Sheffield著「Love Is A Mix Tape」(レビュー記事はこちら>>)は、良質な音楽案内であるとともに、読書案内としても興味深い本でした。

今回レビューする「That Was Then, This Is Now」は、Sheffield氏が少年時代に読んだという一冊。1971年に出版された、米オクラホマ州タルサ出身の女性作家S. E. ヒントンによる青春小説です。

「Love Is 〜」の中でこの本は「薬物乱用防止の啓発小説 (the don’t-take-drugs paperbacks)」と紹介され、短い引用文とともにサラッと触れられているだけでした。しかしその引用された一文がいかにもサイケデリックで、大人の私が読んでもなかなかに怖いんです。「アメリカ人は10代でそんな強烈な本を読むのか…」と、じわじわ気になってきました。Amazonを検索して出てきたペーパーバックのカバーデザインがとても気に入り、即座に購入ボタンをクリックしてしまった次第。(私が買ったのはこちらの版です)

ドラッグが引き裂く友情。

幼い頃から兄弟のように同じ時を過ごし、固い絆で結ばれていた2人の少年。大人への階段を上るにつれて2人の関係に小さな亀裂が生まれ、やがてその友情は悲しい幕切れを迎えます。

2人の間を引き裂く決定的なきっかけとなったのがドラッグでした。ドラッグが蔓延する背景として描かれているのは、経済格差によるコミュニティの分断と暴力、大人によるネグレクトや精神的虐待などです。社会が抱える問題が、70年代と現在とでほとんど変わっていないことに愕然としました。変わっていないというよりも、歴史は繰り返すということなのかも。

Photo by SHOT on Unsplash
このカラフルで丸いものが悲劇を呼んでいく…。

すれ違う思い、悲しい現実。

2人の少年の友情が破綻していくさまが、本当にやるせなくて…。私はこの物語を読んで、サン=テグジュペリの「人間の土地」に書かれていた一文を思い出しました。

「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」

どんなにお互いを必要とし、相手を大事に思っているつもりでも、その思いが間違った方向に行ってしまうと、関係が壊れるばかりか相手の人生までも崩壊させることにもなりかねないのです。こんなにも厳しい人生の側面をティーンに向けて語ってしまっていいの?と思いましたが、著者がこの本を書いたのはまだ20歳前後だったというから、ただただもう驚きです…。

今に通じる青春物語。

164ページと短め、英文もシンプルで読みやすいので多読にも最適…と言いたいところですが、読後感は決して良くはないので「ハッピーエンドの作品以外は読みたくない」という方にはオススメしません。

ですが、この本で描かれていることは決して遠い世界の話ではなく、人生の歯車がひとつ狂えば誰の身にも起こり得ることなのです。若者だけでなく幅広い年代に、長く読まれてほしい作品です。日本語版も、新訳での復刊をぜひお願いしたいところです。

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