Netflixで配信中のドラマ『コブラ会』。1984年に公開され大ヒットしたアメリカの青春映画『ベスト・キッド(原題 “The Karate Kid”)』の34年後を描いた作品です。オリジナルキャストが再び集結して熱い闘いの火花を散らすということで、大きな話題となりました。
私も、シーズン1から3まで3日間で一気に観てしまうほど、このドラマにハマってしまいました。かつてのいじめられっ子といじめっ子が大人になって立場が逆転。片や誰もが羨む成功者、片や人生の負け犬という状況にある中、空手の師匠となって再び対峙する…。この設定は『ベスト・キッド』のファンにとってはたまらない構図です。
彼らの弟子となるイマドキの若者たちの事情もふんだんに盛り込まれ、人間模様が複雑に絡み合うスリリングな展開。一度見始めたら途中でやめられないほどの面白さです。
シリーズの継続は発表されていますが、新型コロナの影響もあり、次シーズンの配信はいつになるのやら。すっかりコブラ会ロスに陥ってしまった私は、シーズン1の初回からもう一度観て、『ベスト・キッド』も幾度となく見直し、YouTubeでメイキング映像や出演者のトークなど関連動画を漁りまくっています。ひとつの映像作品にこんなにものめり込んだのは本当に久しぶり。
マイオールタイムベストの映画『ベスト・キッド』
実は『ベスト・キッド』は、私が生まれて初めて劇場で観た外国映画なのです。あれは小学6年生の時。一足先に映画を観た兄が部屋に放っていたパンフレットを読み、「これは面白そうだから私も観たい」と兄にせがんで、映画館に連れて行ってもらったのでした。
それまでに映画館で観た映画といえば、銀河鉄道999とか東映まんがまつり(これって今も続いてるんですね!)などのアニメ作品や、たのきん映画(私はトシちゃんのファンでした)や薬師丸ひろ子主演の角川映画などの邦画だけ。レンタルビデオも存在しなかった私の子供時代、洋画は「ゴールデン洋画劇場」や「日曜洋画劇場」などのテレビ放送で見るものでした。私にとって、映画館で外国映画を自分の意思で観ることはまさに大人の階段を昇る行為で、この上なくワクワクしたのを覚えています。
そんな思い出もあって、映画『ベスト・キッド』には特別な思い入れがあります。いじめられっ子の転校生が空手の技を身につけ、自分をいじめる不良グループを打ち負かすというストーリーは気持ちのいいものでしたが、子供ながらにもっとも惹かれたのが、主人公ダニエルに空手を教える謎の東洋人、ミスター・ミヤギの存在でした。
人生の師匠ミスター・ミヤギ
多くを語らず、争いごとを嫌い、孫ほどの歳の差があるダニエルを「さん」付けで呼ぶミヤギ先生。「暴力では何も解決しない」空手の達人であるミヤギ先生のその言葉は私の心に深く刻まれ、自分の学校にもミヤギ先生みたいな人がいてくれたらなあと思ったものでした。当時の教育現場には、生徒に平気で暴力をふるう教師がまだまだ普通にいましたから。
空手を習いたいというダニエルに対し、ミヤギ先生は車のワックスがけや壁のペンキ塗りなどの雑用を命じます。右手でワックスを塗り、左手でワックスを拭き取る(”Wax on, wax off.”)。
有無を言わせず雑用ばかりさせ、空手の技を教えてくれないミヤギ先生に不満を募らせるダニエル。しかしその単純作業の連続こそが、ミヤギ先生が空手において最も重要視する「防御」の動きにつながるものでした。知らず知らずのうちにその動きをマスターしていたことにダニエル自身が気づくシーンは、映画史上屈指の名シーンだと思います。このシーンを見返すたびに、私の胸に熱いものが込み上げてきます。
ミヤギ先生の教えは一貫しています。やるべきことがあるならそれ一点に集中し、全精力を注ぐこと。これは今流行りのアニメでいうところの全集中の呼吸というやつでしょうか…。そのアニメを観ていないことが丸わかりで恥ずかしいのでこれ以上は触れないでおきますが…。まあとにかく、ただひたすらやり続けること。無心で実践し続ければ結果は自ずとついてくる…ミヤギ先生はシンプルな言葉と行動でそれを示してくれるのです。
ミヤギ先生の教えを洋書で学ぶ。
この「ミヤギ道」に通じる精神を洋書でも学ぶことができます。アメリカに禅を広めた曹洞宗の僧侶、鈴木俊隆師の教えをまとめた「Zen Mind, Beginner’s Mind」です。あのスティーブ・ジョブズ氏も愛読した禅の入門書としてご存知の方も多いでしょう。
ミヤギ先生の教えは、この本に書かれている禅修行そのものです。ただひたすら座禅を組むこと。それをする理由は考えず、またそれがもたらす結果も求めず、ただ実践するのみ。それを継続できる者だけが、勝ち負けや善悪にとらわれない自由な精神を手にすることができる…これが禅の教えです。ミヤギ道カラテにおける絶え間ない防御の稽古は、自由な精神を得るための唯一の手段なのです。相手がどんなに汚い手を使って攻撃してきても防御ができれば殴られることはなく、また相手を無用に傷つける必要もなくなるのですから。
終わりのない修行の継承者たち
禅修行と空手修行において何よりも重要なのは、修行に終わりはないということです。この修行の難しさは、『コブラ会』の中でもしっかり描いてくれています。
『ベスト・キッド』でヒーローとなったダニエルは、その後もミヤギ先生の教えを心に留めて生きてきたと見え、立派な大人に成長しビジネスで大成功、幸せな家庭にも恵まれました。しかし日頃は温厚なダニエルも、不意に沸き起こる怒りやいらだちに我を忘れて無茶な行動をとり、思わぬトラブルを招いてしまいます。
思えば高校時代のダニエルも、不良グループの神経を逆撫でして相手をムダに刺激するようなところがありました。ミヤギ先生はそんなダニエルの未熟さを見抜いた上で軌道修正を図ってくれましたが、そのミヤギ先生はもうこの世にはいません。ダニエルは、自分をいじめたかつてのライバルと対決する前に、内なる敵である自分の弱さと向き合わなければならないのです。
そして、不良グループのリーダーだったジョニーは大人になって自分を見失い、荒んだ生活を送っていましたが、ふとしたことから再び空手に取り組むことになり、人生の仕切り直しが始まります。人間としていちばん脂が乗っていたはずの時期に辛酸をなめたことで、ミヤギ先生の直弟子のダニエルよりもさらにリアルな形で、ミヤギ道の本質を後の世代に伝えられる存在になっていきます。しかし、過去の因縁がたびたびジョニーの邪魔をして…。
かつては高校生だった私も、今では中年版のダニエルやジョニーの気持ちが痛いほどよくわかります。いくつになっても、揺るぎない心を持ち続けるのは至難の業。人生とは一生続く修行なのですね。
本のブログなのに、気がつけば自分の好きな映画とドラマについて長々と語ってしまいました…。申し訳ございません。
えー、「Zen Mind, Beginner’s Mind」は数年前に一度挑戦したのですが、その時は雲をつかむような、わかったようなわからないような…そんな気分で読み終えたものです。しかし『コブラ会』にのめり込みミヤギ道の神髄に再び触れてからというもの、この本の内容がだいぶ具体的な形で心に染み込んだ気がします。
本の内容を理解することとそれを実践することは全く別の話ですが…。修行はまだまだ続きます。
当ブログにお越しいただいた方の中には英語を学習中の方もいらっしゃると思いますが、『ベスト・キッド』と『コブラ会』をまだご覧になっていない方は今からでもぜひお楽しみください!英語ネイティブとの会話が弾むこと請け合いです。会話の中でスティーブ・ジョブズ氏も愛した「Zen Mind, Beginner’s Mind」についても一言触れれば、相手に一目置かれること間違いなし…かもしれない…気がする(急に弱気になったので今から防御の稽古してきます)。禅の精神は語学にも通じるものです。外国語の勉強にも終わりはありませんから…。
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